凄い偶然というものがある。私がそこに行ったのは正しくそんな偶然の中でも最高のものであった。
しまった制御不能だ。墜落だ。
コントロールパネルは燃えてるみたいに赤い。もう手の施しようがない。都合よくだだっ広い海に着水できそうなことだけが唯一の救いだった。
だがそうは問屋が卸さなかった。観測装置も作動限界を超える高温で変になっていたのだ。ああ、大地に激突して一巻の終わりか。私は覚悟を決め、シートに身を沈めて故郷の惑星に残してきた家族にただ心の中で謝罪を繰り返した。そして、激しい衝撃が来て、私にも最期の瞬間が……。
来なかった。
私は恐る恐る、宇宙船の窓から外を見てみた。私の宇宙船は池に突き刺さり、もうもうと蒸気を吹き上げている。その白い湯気の向こうは緑とピンクに彩られている。池には人工構築物である橋が架かっている。湯気が消えると、そこには私の宇宙船を物珍しげに見る原住民の群れがいた。
宇宙船から出ると私のヘッドセットは快適に通訳を開始する。
「お前、どっから来たんだ」と原住民。
「私は『地球』から来た」
「馬鹿を言え。ここが地球だ」
私の頭は少々困惑を覚えた。ここが母なる惑星であろう筈がない。少し考えてから私は天を指差し、あっちだ、と言った。
「そうか」
原住民は簡単に納得した。
「君も飲むか」
一人の原住民が言った。
課長まずいですよ。第三種接近遭遇ですよ。と言う声が聞こえる。大丈夫だよ。と課長と呼ばれた男は答えた。
「それは何だ」
私は課長と呼ばれた男が手に持ったものを指差して聞いた。その男は一升びんを掲げて、酒だ、と言った。
そして宴が始まった。
私は彼らの会社の席に招かれ、簡単に異星からの客とだけ紹介された。そして、あっというまにＯＬと呼ばれる女達に囲まれた。
彼らはその宴席の近くに生えている『サクラ』という木の生殖器を見てうれしがっているらしい。彼らはいかに『サクラ』を愛しているかを語り、古からの歴史的行事であると教えてくれた。
「綺麗ですね」
「でも桜って一週間ぐらいで散っちゃうし」
「でも、そこがいいんじゃん」
その辺りは私には良く理解らないが、そういうものなのだろう。
ともかく私も彼らと共に大いに飲み、食べた。
やがて彼らは皆顔を『サクラ』のように染め、駅に向かって坂を登っていった。
あとに残された私は池に落ちた宇宙船に戻ると修理を開始した。そして、翌朝修理を終えて宇宙に戻るとき、私は『サクラ』の細胞を採取した。故郷でもう一度『ハナミ』をするために。