シナモンと彼女は言った。
「シナモンと彼女は言った、か。妙なダイイングメッセージだな」
「その書き出しで何書くの」
妹が画面を覗き込む。
「推理小説、かな」
「ふうん」
と怪訝そう。
「いや、まあ、ダイイングメッセージの出てくる話と言えば推理小説だと思うというだけで…」
「そりゃそうだね」
そりゃそうだが、自分でもなんでこんな始まりで書き始めたのか良く解らない。
握り締められた右手の中のメモ用紙に残されていた言葉、必ずしもダイイングメッセージではないとも取れるが、五郎は確信を持っていた。
おいおい、五郎って誰だよ。もうちょっとましな名前にしてやれよ。しかも、男だって決めつけて掛かってる。発想が貧困だね。
「ねえ、五郎って仮の名前？ もうちょっと名前に気を付けた方がいいよ。だいたい男にするのって発想が貧困だと思わない」
独り言を綺麗になぞられる。まったくこれだから双子って奴は。
「とか、独り言言ってるんでしょ。いいかげん自信持ちなよ」
「あのなあ。隣から覗き込んでないで。レポートはどうしたんだよ」
「大丈夫大丈夫。で、五郎ってどういう人」
「そうだなあ」
なぜなら、彼が犯人だからだ。
「ちょっと。いきなり犯人ばらしてどうするの」
「斬新だろ」
「そういう問題じゃ…」
昨日の電話を聞かれていたのだ。「シナモン」と彼女が言ったのを。
「ねえ、その前に誰が死んだか書かなくていいの？」
「誰が何のために死んだか解らないっていうのは駄目？」
「推理小説にならないじゃん」
「諦めた」
「というか、これ何行で終っちゃうの？」
「シナモン」？ 違う、そうじゃない。「品物」と彼女は言った。
しなもんと彼女は言った。
「終り？」
「というか、失敗」