セトカリッカ星系第2惑星セトカリッカ、セトカリッカ大陸を占めるセトカリッカ国首都セトカリッカ。
そのセトカリッカのとある建物の中。
「大統領」
「どうした」
大統領と呼ばれた若い男が執務机の書類から目を上げ、部屋に入ってきたさらに若い男を見る。
「せ、宣戦布告です」
「宣戦布告？ どこだ、相手は。オスマイル帝国？ ニンペ共和国か？」
オスマイル帝国、ニンペ共和国とも、隣のテア大陸にある国。
「それが…」
「なんだ。はっきりしろ」
「…チスキャーデです」
「チスキャーデ？ 寝ぼけてるのか。隣の星だぞ」
チスキャーデは隣の星。
第3惑星という意味ではなく、別の恒星系だ。
「お昼のニュースです。 チスキャーデ政府は、本日、我が国に対し、宣戦布告を行ないました。 この通告は直接電波通信により行なわれた模様で、暗号化されておらず、複数の観測機関が通信を傍受したとの情報が寄せられております。 政府はオスマイル・ニンペと対応を協議を開始すると発表しました。 また、市民には冷静に対処するよう呼びかけています」
とある社員食堂。
「やばいよ。戦争だってさ」
「へえ」
「へえって。他人事みたいに」
「他人事だろ。で、どことどこ」
「ニュースぐらいチェックしろよ。セトカリッカとチスキャーデだ」
「へえ、で、チスキャーデ？ 知らないな。どこだ、それ」
「えっと、どこだっけ」
横から蔑むような視線。
「あんたら、物を知らな過ぎ」
「悪かったな」
「チスキャーデってのは、距離が確か16光年離れてるけど、まあ隣の星ね」
「16光年？ ピンと来ないなあ」
「光で16年」
「それぐらい解るよ」
「宇宙船は、一番早いので40年ぐらい」
「へえ」
「やっぱり他人事じゃん。
40年経ったら、どうせ病気とかでくたばってもおかしくないし」
「はあ…」
「何溜め息吐いてるんだよ」
「今から40年じゃないでしょう。宣戦布告が届くのに16年掛かってるんだから」
「そうすると、差引…24年？」
「ずいぶん先、てことに変わりはないな」
とある高校。
「戦争だって、恐くね？」
「恐くはねえだろう。今すぐどうこうって話じゃねえし」
「っていうかさ、俺が気になるのは、今じゃ全然違う政権とかになっててさ16年前のことなんて忘れて呑気に暮らしてるんじゃねえかって話だよ」
「はあ？」
「ああ、チスキャーデの方の話な」
「そう」
「話見えねえ」
「だからさ、こっちに宣戦布告が届いたのが今日だったけど、向うが宣戦布告したのは16年前だってことだよ」
「何で」
「お前、馬鹿だろう。16光年向うの星から電波がえっちらおっちら進んで来るのに16年掛かっているだろう」
「あ、そういう意味ね」
「それ以外にどういう意味があんだよ」
彼らはチスキャーデが帝政であることを知らない。
16年前、チスキャーデ星系第5惑星チスキャーデ、チスキャーデ島に位置するチスキャーデ帝国の首都チスキャーデ。
皇帝の顔色はどことなく冴えなかった。
「早まったかな」
「あの大使の暴挙ですから、これぐらいのことは」
「でもさ、タキオン通信もワープもなしで、戦争にならないだろう」
「手始めに、爆弾を積んだ高速輸送船を自動爆破装置着きで送り付けておきました」
「手早いな」
「…あまりお喜び頂けませんでしたか」
「高速と言っても着弾まで40年だろ？」
「御意」
「しかも迎撃されないとして、だ」
皇帝陛下の愁いは晴れない。
そして16年後。
「天文学者の予測によると、今日か明日、向うに宣戦布告が届くころだそうでございます」
「偉大な先帝を持って余は幸せであるぞ、まったく」
当時は皇太孫であった現皇帝は、祖父帝の肖像画を睨みつけた。
「いかがなさいますか」
「放っておけば良い。向うも４・５日悩んで忘れるだろう」
さらに13年後、爆弾を積んだ宇宙船はセトカリッカ側に簡単に迎撃された。 その後停戦交渉が始まったという話はない。 宇宙戦争は、つまり、目下継続中である。